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診断北海道 48号 2022年2月発行

拙著『ちっちゃな「不」の解消から始めるカイゼン活動~短期間に成果を出して勝ちグセをつける!~(日刊工業新聞社)』の紹介

2022年2月14日その他

中小企業診断士 小野 司

この本では、「ちっちゃな「不」(不便、不自由、不安、不平、不満)の解消」から始めるカイゼン活動の進め方について、紹介させて頂いております。なぜなら、それが、短期間に成果を出して、継続することにつながるからです。また、事例を多用していることも特徴です。なお、副タイトルにある「勝ち」とは、他に対してではなく、“過去の自分”に勝つことという意味、「グセ」とは、継続するという意味です。

カイゼン活動とは、一言でいえば、現状を「変える」活動です。カイゼン活動を支援して感じることは、できれば変わりたくないと思っている方がとても多いことです。このことが、カイゼン活動に取り組むことを難しくし、続かなくしている最大の要因になっています。

人は変わりたくない生き物

確かに、現状のままでいると取り残されるように感じる、変わらないことに不安を感じる、だから“変わりたい”という方はいます。

しかし、カイゼン活動においてそれは少数です。“変わりたくない”という方にその理由を聞いてみました。「特に困っていません」「不便、不自由はあるが変えるほどではないです」「変えること自体がめんどうです」「変えると仕事が増えます」「変えると新たな責任が生じます」など、反応はさまざまです。

変わるには大きなエネルギーが必要

このような状況を乗り越え、変わるには大きなエネルギーが必要になります。それは、カイゼンリーダーのエネルギーだけでは足りないことが多いです。そのため、カイゼン活動では、現場の方々のエネルギーをいかに生み出すかがその成否を決めます

現場の方々には、すばらしいカイゼン事例、いい考え方や優れた事例を聞いても動かない方や動けない方が多いです。

では、現場の方に動いてもらうためのエネルギーはどこから生み出せばいいのでしょうか。

それは、現場の方に、“楽しそう”、“おもしろそう”など、カイゼン活動に興味や好奇心を持ってもらうことです。そこからエネルギーを生み出します。

その現場の方とは、現場のエースを指すのでしょうか。確かに、現場のエースの方々のエネルギーは大きいです。しかし、その少数のエースのエネルギーを合わせただけでは足りません。エースのエネルギーが減少してしまえば、活動は停滞してしまいます。ですから、ひとりでも多くの方のエネルギーを足し合わせ、さらにはかけ合わせていくことが必要になります。

現場のメンバーがカイゼン活動に興味や好奇心を持つには

では、現場のメンバー一人ひとりが、カイゼン活動に興味や好奇心を持つようにするにはどうすればいいでしょうか。

よく実践されていることは2つあります。

1つは報償や表彰等のごほうびを用意することです。もう1つは現場の方の「~したい」という声、すなわち現場の欲求を聞いてこれに応えることです。

報償や表彰等のごほうびの効果は限定的

ごほうびは、確かにもらった時はうれしいものです。モチベーションも上がります。しかし、この喜びは経営者やリーダーが思っているより早く冷めてしまいます。また、現場の方が期待するごほうびと経営者が提供するごほうびとの間には、どうしてもギャップが生まれます。

あるメンバーから「がんばったのに、これしかごほうびをもらえないの?。」という声を聞いたことがあります。それどころか、「私はごほうびには興味がありません。カイゼン活動は、ごほうびがほしい人たちでやればいいと思います」という声も聞きます。ごほうびの効果は限定的なのです。

現場の方の「~したい」という欲求を引き出す

変わりたくない多数の方にとりましても、自分の“~したい”という欲求を満たすためでしたら、カイゼン活動をしたいと思うものです。たとえ、その欲求が「もっとリラックスして周りの人と話がしたい」等の身近なものであっても、その欲求が満たされそうであれば、カイゼン活動への興味や好奇心を持ってもらえるものです。

また、欲求が満たされなくても、その欲求を単に聞いてもらえたというだけで、うれしかったという場合も少なくなりません。

この自分たちの想いを聞いてもらえた、さらに共感してもらえたということが、カイゼン活動の最初のエネルギー源になります。

一方、この欲求を、カイゼン現場で、メンバーに吐き出してもらうことは難しいです。発言に責任も生じますし、普段あまり考えていないこともあり難しいのです。そのため、私は現場の方に「不」を吐き出してもらっています。「不」を解消したい!という、欲求に応えていくのです。

さらに、カイゼン活動を進めていくには、このエネルギーを少しずつ大きくし、そして長持ちするようにしていきます。

本書のカイゼン活動の流れを簡単にまとめますと

現場の方々に「不」を吐き出してもらうことで、カイゼン活動に興味を持ってもらいます。次に、その「不」の解消に取り組んでもらいます。

しかし、何かを変えると、必ずと言っていいほど、メリットとともにデメリットが現れます。現場は、このデメリットが気になり、行動に移せなくなっています。

そのため、カイゼン活動では、行動したことの「振り返りの場」を設けます。ここでは、成果より、プロセスにフォーカスします。そして、原則ポジティブフィードバックにします。勇気づけしていきます。

これにより、最初の一歩が踏み出しやすくなります。やってみて上手くいけば、成功原因を振り返り、成功体験にします。さらに大事なことは、ちっちゃな成果であっても、達成感や喜びを感じ取れるような振り返りにしていくことです。

一方、上手くいかなければ、修正して続けるか、やめて別のことに取り組むかを決めます。淡々とこのサイクルを回します。

本書には、この手法を使ったカイゼン活動の事例を多く取り上げて説明しております。

結論は、エネルギーロスを減らしエネルギーの総量を増やすこと

このサイクルを回すために、ここでカイゼンリーダーにとって重要な心がまえのようなことがあります。それは、リーダーはメンバーを「信じて待つ」ことです。

例えば、アイデア出しやアクションプランを出す場面があったとします。

カイゼンリーダーは、メンバーに対し、暗黙の圧(笑)をかけるのではなく、メンバーの中に答えがあると信じて、それが現れるまで待つことです。黙って、勇気づけしているイメージです。カイゼン後の成功した姿を思い浮かべてただ待つこともあります。

この時、メンバーから、「こんなことに時間をかけても変わりませんよ」と言われることがあります。こう言われるまでリーダーは待つイメージです。これだけで、現場にカイゼンのエネルギーが注入されることもあります。

ここまで信じて待つことで、現場は主体的に考え、自分の足で動くようになってきます。小さなことでも自分の言葉で発言したり、小さな行動を起こしたりするようになります。これがカイゼンのエネルギーにもなります。(リーダーは、現場のメンバーから考えや意見が出てこなくなるまで待った後に、自分なりのアイデアを出したり方針を示します。)

このように進めていくと、メンバー個々が自由に発言したり、助け合いをしたりということが多くなってきます。さらにカイゼンリーダーとメンバーの間に、共感や一体感のようなものが生まれてきます。安全で安心と感じ取れる雰囲気も生まれてきます。

たとえ成果はちっちゃいものであっても、安全で安心と感じ取れる場、心理的に安全と感じ取れる場が生まれれば、それが成功体験になります。

このように心理的に安全という場が生まれると、リーダーやメンバーのエネルギーのロスも少なくなります。また、エネルギーの総量も増えていきます。そして、気がついたらカイゼンが早く進んでいたという結果になります。

拙著は、主に製造業のカイゼン活動をテーマにしておりますが、組織マネジメントや人材マネジメントにも応用できるものです。営業現場、サービス業、学術研究機関でも事例が生まれています。みなさまのコンサル業務の参考にしていただければありがたく存じます。

注.エンド陳列、面陳していただいております。

コーチャンフォー 旭川店
ジュンク堂書店 旭川店

診断北海道 48号 2022年2月発行