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診断北海道 50号 2024年2月発行

事業承継支援を通じて思うこと

その他

佐藤 潤一

中小企業診断士 / くもりのち晴れ 代表

民間企業で銀行融資業務、メーカーの個人・法人向け営業を経験。独立後は経営診断・経営改善計画策定・専門家派遣等を通じ、傾聴と対話を軸に中小企業者の行動変容のきっかけ作りを支援。現在は北海道事業承継・引継ぎ支援センターのサブマネージャーも務める。

はじめに

事業承継には主に親族内承継、従業員承継、M&Aの三類型があります。

親族内や社内に後継者がいない場合、M&Aへ移行するイメージです。親族内や社内に後継者候補はいたが、承継がうまくいかず、M&Aとなる場合も。

この記事では、あくまで私見となりますが、主に親族内承継について考えてみます。  事業承継における課題はお金の問題と手続きの問題・・だと思っていませんか。もちろん、それは大事な要素ですが、私はコミュニケーションの問題も大きいと感じています。

親族内承継のあれこれ

支援で関わっていると、①2代目から3代目の承継で苦労したので、3代目から4代目の承継は苦労させたくない、②創業者から息子への承継がうまくいかず、検討が行われていた第三者承継も立ち消えとなり、現在は孫への承継を試みている、③息子は50歳だが、承継タイミングは父親の専決事項となっており、承継に至っていない、④娘の夫への承継に関し、前向きに検討している旨の話が出る一方で、実は事業の方向性の考え方に相違がある、⑤父親から承継の方向性が明らかにされないので、家族がその状況を心配しているなど、様々なケースが存在します。

前述の事例の中で話が前進しているのは、①~③です。

①と②は円滑に承継したい、という譲渡側の考えもあり、SWOT分析、株式移転等の税務面の課題整理、後継者教育の方針といった要素を含む、「事業承継計画書」というツールを活用しながら、検討が進んでいます。計画では承継予定時期を明確にする必要が出てきますが、ここで躊躇される経営者の方もいます。代表取締役のポジションを譲り、オーナーとしての株式を移転するのは、それだけ重い決断ということなのだと思います。計画作成はそれ自体が目的ではなく、親族間の対話のきっかけという位置づけです。

③は一過性の要因で株価が下がったことから、税務負担を抑えながら承継できそうなタイミングである旨を説明し、父親がようやく決断するところまで来ました。ただし、税務面のみで時期を判断すると承継の全体像が歪むこともあるので、注意は必要です。

 前述の事例の中で話が進んでいないのは、④と⑤です。④は面談の中で娘の夫に関する話題を経営者に振ったところ、よくやってはいるが、の後に数秒間の沈黙が起きました。事業承継計画書を作るのはもう少し先、と言えるかもしれません。⑤は子ども3人のうち2人が後継者候補となっており、残りの1人から相談が来た結果、話し合いのきっかけにはなりました。だだし、まだ時間が掛かります。

いずれの事例も「動き出すタイミング」というものがあります。息子が帰ってくることになった、自身が病気を患ってしまった、税務面のことで背中を押された、などきっかけは様々ですが、タイミングを逃さず、かつ押し付けず、適期に承継が行われるよう、コミュニケーション面、手続き面をサポートできると良さそうです。

おわりに

親から子への事業承継は現在も主要な承継形態の1つですが、当たり前のように代々受け継ぐ、という傾向は薄れつつあるのかもしれません。しかし、残したい事業だからこそ、地域に無くては困るからこそ、「柔らかい」事業承継が模索されています。創業と結びついたり、経営資源の引継ぎという括りで捉えたり、許認可のハードルをクリアするためのスキームを考えたり。

コミュニケーション面は親族内ならではの難しさも存在しますが、従業員承継、M&Aでも課題が生じがちです。M&Aの破談理由について、金額で折り合わない、十分なシナジーが見込めない、といったケースはもちろんありますが、「信頼関係」の側面も大きいです。

M&Aにおいて中立な立場で支援する場合、トップ面談に同席した際は、話し合いの状況を見ながら、会話のキャッチボールをサポートします。トントン拍子に話が進むことは殆どありません。後で言った言わないとならないよう、契約書締結前の基本合意書の段階で、話し合いの経過が分かるようにしておくケースも存在します。 事業承継の話題はセンシティブな面もあり、気軽に話してもらうのは難しいかもしれません。一方で、相談できる第三者の存在が経営者のストレス軽減になったり、頭の整理に繋がったりもするので、ある程度早めに相談が来る関係性を普段から支援者と事業者さんの間で作っておけると良さそうです。

診断北海道 50号 2024年2月発行