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診断北海道 50号 2024年2月発行

中小企業診断士独立体験記 ~地方都市での開業~

2024年2月15日その他

番場 啓

中小企業診断士・行政書士番場啓事務所

自己紹介・経歴

番場 啓(ばんば けい)と申します。函館で独立開業をして8カ月、悪戦苦闘、試行錯誤しながら診断士活動に励んでおります。大学卒業後、メガバンク系のリース会社に入社し、そこで各種の不動産プロジェクトや公民連携案件などに取り組みました。

34歳のときにUターン、地元函館の企業で、主に法務・コンプライアンスの責任者として勤務し、昨年4月、39歳で独立開業を果たしました。行政書士資格も保有しております。

中小企業診断士取得の経緯

函館に戻ってきてから感じたのは、東京との仕事のレベルの差、情報格差、人材の意識の差、そして賃金格差でした。街は小さなころと違い活力を失いつつあり、人通りもまばらになり、子どもの姿を見かけることも少ないです。

勤務先では、法務・コンプライアンスの責任者として一生懸命仕事をしていたものの、もっと街に貢献できる仕事があるのではないかという想いから、中小企業診断士の資格を取得しました。基本的な知識はリース会社の専門営業部隊で培ったものを活かせたため、1回目の受験では2次試験でミスをし不合格になったものの、2回目の受験で合格することができました。

将来的には資格を活かして地元企業を支えたいという想いはあったものの、この時点で独立開業までは想定していませんでした。

突然来た独立開業のタイミング

中小企業診断士の資格を取得したこともあり、勤務診断士としてグループ会社の再建を担うこととなりましたが、外部環境の厳しさに抗うことができませんでした。できることはやったつもりではあるものの、とても悔しく、どうしても親会社に戻るという心情になれず、退職することに決めました。

地元企業にタイミング良くホワイトカラーの管理職を雇うような会社はまずないだろうということから、東京へ戻ることも頭をよぎりましたが、ふるさとへの想いから独立開業を決めました。

日本政策金融公庫の創業融資

突然来た独立の機会に向けて、資金的な準備をしっかりとできていなかった私は、日本政策金融公庫の創業融資をお借りすることにしました。ここでしっかりと自らの創業計画を立てることができたのは、私のベースになっています。また、この経験は創業指導の際にとても役に立っています。

これから開業される方は、資金的な余裕が仮にあったとしても、政策公庫の創業融資を借りてみることが、その後の業務にも役に立つと思うのでおすすめです。

行政書士会函館支部の理事就任

私は、中小企業診断士であると同時に、企業法務の経験を踏まえて行政書士登録もしています。所属する行政書士会函館支部で、まさかの「登録即、理事就任」となりました。地元企業で法務責任者をした経歴や、中小企業診断士の資格保有を踏まえてお声がけいただきました。開業と同時に突然舞い込んだ大役でお受けするか迷いましたが、チャレンジすることにしました。これが、今ではとても良かったと思っております。

函館は中小企業診断士の人数がとにかく少ないこともあって、ネットワークを作る意味でも他士業を兼業する戦略を取ったのですが、早々に地元で仲間をたくさん作ることができ、精神的な安定につながっています。今では、創業分野や産廃業分野などで、行政書士業務と中小企業診断士業務のシナジーの芽がでてきました。今後は事業承継分野などにも活かしたいと思います。

実績の壁~専門家派遣の開拓と地元の支援機関との連携

開業直後はとにかく営業活動に邁進しましたが、「実績の壁」ともいえる難しい問題に直面しました。「実績は?」という問いに明確に答えることができないもどかしさと、ここをどう乗り越えていくかということが大きな課題でした。ある程度予想できたことではありますが、当分の間は仕事もなく、気持ちも落ち込みました。

幸運だったのは、まずは道の専門家派遣事業を通じて、私に頼んでみるかと思ってくださる事業者の方がいらっしゃったことです。そして「函館で独立した中小企業診断士を育てなければならない」と思ってくれた支援機関職員の方がいらっしゃったのが、大きかったと思います。

街への想いを同じくする事業者や支援機関の皆さまに支えられて、開業直後の難しい時期を乗り越えられ、無事に年を越すことができたと思っています。

今後の展望 ~専門分野は道南・函館で~

「実績は?」のほかに、「専門分野は?」と聞かれることもよくあります。これに私は、答えになっていないことを承知で「道南・函館です。」と答えるようにしています。

本来は企業法務やコンプライアンスが専門分野ですが、これらは中堅企業クラスにならないとコンサルティングの課題にはなってこないと思われますし、弁護士などとの業際の問題もあります。そして、その他には大した専門性もないので、高い専門性が必要な業務が生じた場合は、札幌の先生方にご助力賜れればと思っています。まずはコンサルティングが必要な状況を少しでも多く発見することが、地方の診断士の役割だと思っています。

私は、この街に貢献したい、この街を良くしたいという想いで開業しましたが、街の事業者や支援機関の皆さまに支えられ、無事年越しできたというのが開業初年度の結果でした。

2年目以降は、少しでも皆さまに恩返しできるように、道南・函館専門の街の診断士として、総合診療医のような立場で一生懸命信頼を積み重ねていきたいと思っています。そして少しでも長く、この街で仕事を続けられたらと思っています。

おわりに

独立体験記というテーマにし、浅学菲才を晒すようで気恥ずかしさもあるのですが、もし本稿が特に地方での独立を目指す勤務診断士の方に、少しでも参考になれば幸いです。また、先輩診断士の皆さまには、厳しい地方での活動に今後ともご支援、ご指導を賜りたく、どうぞよろしくお願いします。

診断北海道 50号 2024年2月発行