デジタル変革を支える基盤づくり・ロードマップ
デジタル変革を支える基盤づくり・ロードマップ
~現場の実態から見えてきた、成功への3つのステップ~
中小企業診断士 ITコーディネータ 佐土原光
目次
1.はじめに
昨今、デジタルトランスフォーメーション(DX)は、事業規模を問わず必須な存在です。しかし、中小企業において、DX実現に向けて多くの障壁があります。私がIT関連企業・個人事業主として活動する中で、現場支援を通じて感じたこと、そして実際の支援事例から得られた知見を基に、効果的なDX推進のためのロードマップを提示します。
2.課題認識
経営と現場におけるDXの認識の乖離
地域別最低賃金の引上げ、60時間超の時間外労働に対する割増賃金率引上げが進められており、生産性を上げることが急務となっています。ノンコア業務を削減し、人的リソースをコア業務に集中させることで高付加価値の製品やサービスを顧客に訴求していくための第一歩として生産性を上げるという策が必要なのです。しかし、実態としては生産性を上げることが一番の目的となっており、その次のステップである“攻めのDX”に転じている企業は少ないのが実態です。従業員の給与や既存顧客を維持するための“守りのDX”になりがちで、経営層と現場のDXにおける認識の乖離が出ています。
良かれと思った補助金によるツール導入における失敗
私は、これまで複数の事業者に補助金を活用したITツールの導入提案や支援を行ってまいりました。そのうち2~3割程度のクライアントは、導入したITツールを利活用できず、気づけば解約に至ったケースがあります。理由は様々ですが、ITツールの利用推進者が退職してしまった、補助金ありきで導入したことで業務とのアンマッチがでて実際に活用ができていない、効果が薄いなどが挙げられます。
ITツールの運用体制や役割が分担できていない
ITツールを導入する際には、ある程度は標準機能に業務を合わせていく必要があります。Fit To Standardという考え方です。そのために、既存業務の棚卸が必須になりますが、ここで重要になるのはIT導入プロジェクトの運用体制です。システム担当が対応すればよいのでは?と思う方もいらっしゃると思いますが、前述の通り業務の棚卸が必要になるため、効率化の対象業務に従事している業務担当者には必須で関与してもらう必要があります。この体制が曖昧な状況で進めると、進捗が滞り、思わぬ後戻りが発生することがあります。
3.DX推進のロードマップ
以上を踏まえ、DX推進におけるロードマップを3STEPで考えました。DX推進の必要性を誰しもが理解し、自社に適切かをスモールスタートで検証します。そして、得た成果をもとに他部門の活用を促進、新たな業務への適用という流れです。
STEP1:経営層と現場における認識の乖離を埋める
多くの企業でDX推進の障害となっているのが、経営層と現場との間に存在する認識の差です。経営層はDXを通じた経営革新や競争力強化を期待する一方、現場では日々の業務に追われ、新しい取り組みへの余力がないという状況的です。
実際のアクションプランとしては、次のような取り組みが効果的だと考えます。
- 現状把握のための対話の場作り
経営層と現場が率直に意見を交換できる場を定期的に設けることで、双方の認識や課題を共有します。この際、外部専門家が介入することで、より客観的な視点での議論が可能となります。 - 段階的な目標設定
大きな変革を一度に求めるのではなく、現場が対応可能な範囲で小さな成功体験を積み重ねていくアプローチが重要です。極端な例ですが、いきなりAI活用しよう!ではなく、日々の活動のデジタル化(電子化)からスタートすることが良いです。
昨今の生成AIの流れから、AI活用はキーとなりますが、AIを活用する上で、自社で保持している1次データが必須になります。そもそも電子化されていなければデータの活用はできません。
STEP2:スモールスタートで自社への適合性判断・導入
多くの中小企業が、各種補助金を活用してDXツールを導入していますが、必ずしも期待通りの効果を得られていない事例が散見されます。
その主な要因として、ツール導入が先行してしまい、本来の課題解決からかけ離れた導入となってしまうケースや、前述の通り業務の棚卸不足や運用体制が整っておらずプロジェクトが頓挫してしまうケースです。
とは言いつつも、自社で行いたいことをすべてITツールの標準機能で実現できるとは限りません。そのため、スモールスタートや簡易的な検証を実施し、標準機能と自社が求めることの差分を確認すべきです。(Fit & Gap分析)。最近ではSaasといったクラウドアプリケーションでお試し版の利用や単月契約なども可能なため、自社に適合するツールを選定する上でも、検証費用はスモールで抑えることが可能です。
STEP3:社内の成功事例を他部門へ展開・新たな業務への適用
スモールスタートによる一定ラインの成果が出てから、他部門への展開を進めていきます。流れとしては、
- 成功事例の具体的な可視化とストーリー化
導入部門での具体的な成果を、次の要素で整理します:- 導入前の課題と問題点
- 導入・運用プロセスでの工夫
- 定量的な効果(工数削減時間、コスト削減額など)
- 定性的な効果(従業員の満足度向上、ミス削減など)
これらを「Before/After」の形で分かりやすく示すことで、他部門が自分たちの課題とリンクして理解しやすくなります。
- 段階的な展開計画の策定
全部門への一斉展開だと、問い合わせが殺到する、進捗が確認できない、思いもよらない抵抗を受ける可能性があります。そのため、例えば既存導入部門とコミュニケーションが活発な部門や、ITリテラシーの高い部門、若手でやる気のある部門など初期の展開先に選定することで、徐々に活用が広がります。 - 効果的なサポート体制の構築
社内に展開する上で、必ず発生するのは他部門からの問い合わせです。事前に支援体制を整備する必要があります。- マニュアルやFAQの整備
- 質問・要望への迅速な対応窓口の設置
- 定期的な利用状況のモニタリング・フォロー
これらのポイントを意識しながら、各部門の特性に合わせた展開を進めることで、より効果的なIT活用の促進が期待できます。特に重要なのは、「押し付け」ではなく、各部門が主体的に活用したいと思えるようにフォローする意識や環境づくりが大切です。
4.結び:持続可能なDXに向けて
DXは一朝一夕に実現できるものではなく、導入や運用面や部門拡大を行う上で多くの課題があります。適切な準備と段階的なアプローチを取ることで、着実な成果を上げることは可能です。重要なのは、自社の実情に合わせた無理のない推進計画を立て、地道に実行していくことです。
デジタル化の波は、今後さらに加速することが予想され、ITツールもそれにあわせて進化が進んでいます。
現時点では生産性向上という面での利用が多いですが、これからはビジネスモデルを進化・競争力を高めるチャンスになるため、積極的にデジタルは活用すべきです。私自身も、診断士として経営戦略とDX戦略の整合性を取り、提案や実装・活用支援に力を入れて伴走してまいります。
皆様のクライアントでDXにお悩みの事業者さんがいらっしゃいましたら、ぜひお声がけください!本コラムをご覧いただき、ありがとうございました。