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診断北海道 53号 2025年12月発行

中小企業診断士としての IT・DX 支援活動

2026年1月18日道内各地の活動

中井 隆介

中小企業診断士 /株式会社プラスラス 代表取締役

IT ストラテジスト/旭川情報産業事業協同組合 理事



自己紹介

旭川市在住の中小企業診断士の中井 隆介です。 私は、もともとは IT エンジニアとしてシステム開発会社での勤務を経て 2013 年に独立しました。当初は個人事業として始めてその後、株式会社プラスラスとして法人化し、IT コンサルティングやシステム開発を中心に活動しています。 2021 年度(令和 3 年度)の中小企業診断士試験に合格し、中小企業診断士としての活動も開始しました。 システム開発事業が主である自社の事業の傍ら、北海道信用保証協会、中小企業基盤整備機構、北海道中小企業団体中央会、旭川や各地の商工会議所などの支援機関からの依頼を受け、中小企業の IT・DX 支援を行っています。

IT・DX を専門とする中小企業診断士

中小企業診断士として活動を始めてから、支援機関からのご依頼で IT 関連の支援を行う機会が増えてきました。 同じ IT 支援でも、企業の成長段階や業種、規模によって必要な支援内容は大きく異なります。

私はもともと、IT を専門とする事業会社としてシステム開発や技術支援に携わってきましたが、 開発会社としてご依頼を受ける場合、顧客はすでに IT 活用が進んでいることが多く、業務改善の高度化や、複数企業とのデータ連携、IT を活用した新規事業立ち上げなど、踏み込んだテーマを前提に議論が進みます。

一方で、診断士として現場に入ると、そもそも IT 活用が十分でない企業も少なくありません。 基礎的な導入支援から始めることも多く、同じ『IT』という言葉でも、前提条件がまったく異なります。私はこの差を、支援の現場で強く実感しています。

特に難しいのが、先進的に取り組む企業と、最初の一歩が出ない企業のギャップです。

前者はすでに IT の経験が蓄積され、課題意識があります。意思決定も速く、自社データや IT 推進体制の構想も持っているため、改善が次の投資につながりやすい状態にあります。

後者は、業務が属人化し、時間も人も足りず、「どこから手を付ければ良いのかがわからない」という悩みの中にいます。支援者としてこの距離をどう埋めるべきか、私自身いまも試行錯誤しています。

ましてや DX(デジタルトランスフォーメーション)まで考えるとなると、単なる IT 導入支援とは異なる視点が必要です。

国の DX 推進政策

DX は、経済産業省が 2018 年に発表した「DX レポート」を契機に、日本の中小企業支援政策の中核に据えられました。

国が DX を推進する背景には、人手不足、コスト上昇、消費行動の変化など、中小企業を取り巻く構造変化があります。

DX は一部の先進企業の取り組みではなく、環境変化に適応するための経営課題として位置づけられています。

また近年の議論(各種の DX 動向や関連指針等)を見ても、DX は単なる IT 化やツール導入ではなく、経営の在り方そのものをデジタル前提で見直し、継続的に改善していく取り組みとして捉えられています。

つまり政策側は、「どの IT ツールを導入するか」そのものよりも、導入を通じて経営や業務がどう変わるか、そしてその変化をどう継続・定着させるかに軸足を置いている、ということだと理解しています。

この文脈を掴むうえで、私が参照している国・関係機関の資料を、要点だけ挙げると次のとおりです。

一方で現場では、制度や補助金を入口に導入が先行し、その後の運用が続かないケースも起こります。ここを埋めるには、導入の可否より前に、経営課題と結びついた目的・優先順位・運用設計を作り、現場が回る形に落とし込むことが欠かせません。

DX は小さな改善の積み重ねだけではたどり着かない

DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉は広く使われていますが、その定義は曖昧で、人によって捉え方が異なります。ここでは、次の例のように整理して考えています。

  • デジタル化:紙を Excel や 各種データベースに置き換える
  • デジタル活用:業務効率化、情報共有の高速化、属人化の低減
  • DX:事業の提供価値や収益構造、意思決定の仕組みそのものを変える

業務改善は不可欠です。しかし、改善は多くの場合「現行業務の延長線上」で最適化が進むため、それだけでは DX に到達しないことが少なくありません。 DX で問われるのは「作業を早くする」だけではなく、「そもそもその作業は必要か」「顧客への価値提供をどう再設計するか」という視点です。

一方で、現場の体力が限られる企業に最初から大きな改革を求めるのも現実的ではありません。 改善で基盤を整えつつ、条件が整った段階で再設計に踏み込めるよう、道筋を描くことが重要だと考えています。

現状維持はリスクとして考える必要がある

不確実性の高い現代では、市場や競合が DX 投資に動く以上、現状維持は相対的な競争力の低下につながり得ます。 特に、業務の属人化や古い仕組みの温存は、コスト増・品質低下・意思決定の遅れとして表面化しやすく、気づいた時には投資余力が削られている、という流れになりかねません。

だからこそ DX は「余裕ができたら」ではなく、余裕を作るために早めに小さく始めること、その上で道筋を描いて進めることが重要です。

中小企業診断士としての私の役割

DX における中小企業診断士の関わり方は一様ではありません。 企業の状況、支援の枠組み、診断士自身の専門性によって、適切な立ち位置や支援範囲は変わります。私自身も、どこまで踏み込むのが最適かを現場ごとに考え続けています。

そのうえで、私が「診断士として提供し得る価値」として意識しているのは、次のような役割です。

  1. 現状の可視化 業務・組織・情報の流れを整理し、議論の前提を揃える。
  2. 課題の構造化と優先順位付け 困りごとを原因と成果に分解し、「経営に効く論点」を見える形にする。
  3. 段階的な To-Be 設計 理想を押し付けず、第一歩から次の一手までを段階案として示す。
  4. 実行と定着の支援 導入が目的化しないよう、運用ルールや効果測定まで含めて支援の濃淡を設計する。

なお、DX 動向の議論でも繰り返し示されているのは、DX の成否がツールの良し悪しだけで決まるわけではなく、推進人材の不足、役割の不明確さ、データの扱い方、意思決定のプロセスといった“土台”に大きく左右されるという点です。 ツール以前に「誰が何を推進するのか」「どの判断をどの頻度で回すのか」を設計できるかは、支援側の腕が問われる領域だと感じています。

今後の展望

同じく診断士として IT・DX 支援に関わる方なら、先進的に進む企業と、最初の一歩が出ない企業の差に、少なからず悩むことがあるのではないでしょうか。私自身もそのギャップを前に、毎回「どうすれば届くか」を考え続けています。

これまでの経験からは、業務分析を丁寧に行い、課題起点で整理するというアプローチは有効だという実感があります。

ここから企業が動けるサイズまで落とし込み、『次の一手』を具体化するための定型的な方法は、まだ確立されていませんが、引き続き現場での試行錯誤を通じてノウハウを蓄積し、丁寧に支援していきたいと思います。

小さな前進を積み重ねつつ、条件が整った段階でより大きな変革の議論に繋げる——その段階設計を、自分なりの型として磨いていくつもりです。

診断北海道 53号 2025年12月発行