地域に根差した事業承継支援と創業支援の現場から

池戸隆訓
中小企業診断士
これまでの経歴
私は、公的機関および民間企業で20年超にわたり勤務し、管理会計や原価管理、人事制度構築、採用・労務管理など、企業活動を内部から支える立場で実務に従事してきました。数値管理や制度設計を通じて経営を支える一方で、制度や仕組みだけでは現場が円滑に機能しない場面も多く目にしてきました。
こうした経験から、企業の課題に向き合う際には、数値や制度といった表面的な部分だけでなく、経営者がどのような想いで事業に取り組んできたのか、また、その事業がどのような背景のもとで成り立ってきたのかを理解することが、より実効性のある関わりにつながるのではないかと考えるようになりました。
現在は中小企業診断士・社会保険労務士として独立し、北海道事業承継・引継ぎ支援センターでの事業承継支援をはじめ、江別市内を中心とした創業支援や、社会保険労務士業など、地域に根差した支援に取り組んでいます。
事業承継支援
事業承継は全国的にも大きな課題となっており、特に都市部から離れた地域においては深刻な状況です。事業によっては、その地域に一件しか存在しないケースもあり、もし廃業となれば、地域のバリューチェーンが欠け、雇用が失われ、住民の利便性が低下するなど、地域の魅力そのものが損なわれてしまう恐れがあります。
こうした事態を防ぐためにも、廃業を選択する前に、北海道事業承継・引継ぎ支援センターをはじめとした支援機関に相談し、事業承継という選択肢をより具体的なものにしていくことが非常に重要であると考えます。
さて、北海道事業承継・引継ぎ支援センターでは、三類型とされる「親族内承継」「従業員承継」「第三者承継」のいずれの支援も可能です。中小企業の事業承継では、譲渡側・譲受側双方の信頼関係が何より大切であることから、お相手探しについては、まずは身近な人物から検討し、少しずつ検討範囲を広げていくことが、円滑な承継につながるものと考えられます。そのため、第三者承継を検討する場合でも、自社のバリューチェーンや地域・業界のコミュニティなどに目を向けてみることが大切です。
創業支援
創業支援においては、ビジネスモデルの整理、商品・サービス構成の検討、制度融資の活用など、幅広い相談に対応しています。特に注意が必要となるのは資金繰りで、初めて取り組む事業にどの程度の設備資金・運転資金が必要となるのかは、時間をかけて一緒に検証するようにしております。よくある相談としては、創業当初から商品ラインナップを幅広く取りそろえたい、季節もの商品を扱いたい、といったものがありますが、資金が在庫に姿を変えたまま、長期にわたって現金化されないといったリスクが考えられます。また、仕入先との関係性がまだ構築されていない段階では、保証金の差し入れや即金払いを求められる事もあり、創業当初の資金繰りは特にゆとりを持った準備が大切です。
さて、創業を目指す方は、前職などで培った知識や経験、人脈などの知的資産を活用する場合が多いものではありますが、それでもやはり試行錯誤しながら事業を組み立てて、関係者との信頼関係を構築していくのは想像以上に大変で、時間もかかります。如何に準備をしていても、軌道に乗るまでの期間、資金が減り続けていくストレスを感じながら事業を続けていく覚悟が必要となる場合が多いです。その様な時に備えて、創業計画における「創業の動機」は、困難に遭遇した時に読み返すと、再び自分を奮い立たせることができるので、創業前の熱い気持ちをここにしっかり文書化しておくことをお勧めします。
事業承継による創業のすすめ
繰り返しにはなりますが、ゼロからの創業はリスクが読みにくく、軌道に乗るまで相応の時間がかかります。一方で、事業承継による創業、いわゆる「引継ぎ型創業」であれば、既存の顧客や仕入先、販売生産ノウハウ、過去の売上実績といった知的資産などを引き継ぐことができ、ゼロスタートと比べて投資回収の予測が立てやすく、また引継ぎ後すぐに事業を展開できるというメリットがあります。
こうした「引継ぎ型創業」に関しては、創業意欲の強い方と、後継者不在の事業者様とのマッチングを行うサービスとして、北海道事業承継・引継ぎ支援センター内に、北海道後継者人材バンクという機関が設置されております。創業と事業承継を組み合わせることで、既に地域で役割を担っている事業を継続しながら、新たな担い手がチャレンジできる可能性が広がると感じています。
おわりに
中小企業は、雇用の場の創出や人と人とのつながりの形成など、地域の人々の生活において重要な役割を担っています。こうした地域の中小企業の集積が、日本の経済を下支えし、ひいては国そのものが成り立っています。その意味で、中小企業は地域経済の中心であり、地域の魅力そのものだと考えています。
しかし、経営者の高齢化や後継者不足を背景に、廃業や倒産が増加し、地域産業が衰退していくことが懸念されています。これは一企業の問題にとどまらず、地域全体、そして日本の活力を低下させかねない問題です。
私は中小企業診断士として、事業承継支援と創業支援の両面から関わることで、地域に根差した事業を次世代につなぎ、明るい未来を築いていきたいと考えています。
今後も現場に寄り添った支援を通じて、地域経済の持続的な発展に貢献するとともに、会員の皆さまからのご指導・ご鞭撻を賜りながら、研鑽を重ねていきたいと思います。
