事業は人なり? SDGs/ESGで改めて注目される人的資本

経営の神様・松下幸之助はかつて「事業は人なり」と語ったとされます。そこには、企業を発展させるのは、技術でも製品でもなく人であるというメッセージが内包され、人的資本の重要性が示されています。

松下幸之助が経営の第一線を退いてから50年あまり、2021年は日本企業にとって人材マネジメントを見つめなおすターニングポイントの一年になりました。大きなきっかけは、コーポレートガバナンスコードの改訂です。

CGコード改訂で明記された人的資本の重要性

コーポレートガバナンスコードとは、東京証券取引所が上場企業に求める原則(コード)です。企業が持続的に成長し、中長期的に企業価値を向上させるために必要(と考えられる)ガバナンス上の原則がまとめられています。

このコーポレートガバナンスコード(以下「CGコード」)は3年ごとに改訂されていくもので、2021年6月に最新の改訂がなされました。改訂の目玉の一つが多様性や人的資本に関する内容です。以下引用します。

“補充原則2-4①
 上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示すべきである。
 また、中長期的な企業価値の向上に向けた人材戦略の重要性に鑑み、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきである。”
“補充原則3-1③
 上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。(後略)”

ざっくりまとめると、「中長期的に企業価値を向上させるには人材戦略が重要だよね」という点と、「だから、人的資本に関する方針を対外的にも開示してね」という要請の二つがポイントとなっています。

今回のCGコード改訂により、上場企業にはダイバーシティを含む人材マネジメントの基本方針を開示することが求められるようになりました。好む・好まないに関わらず、人的資本について考えることを迫られているわけです。

なぜ人的資本が重要になってきているのか?

CGコード改訂で人的資本の重要性が指摘され、上場企業には情報開示が求められていることはわかりましたが、背景にはどういった理由があるのでしょうか。キーワードは「無形資産」です。

企業が保有する資産は大きく有形資産と無形資産に分けられます。有形資産はその名の通り形を持った資産で、例えば工場や機械、商品などが挙げられます。一方で無形資産は目に見えないもので、その一つに人材があります。

近年、無形資産の重要性が加速度的に高まっています。アメリカ主要企業500社の調査では、時価総額の8割超が無形資産によりもたらされていることが分かっています。推移をみると、比率は年々高まっています。

上記から読み取れるのは、企業の競争のフィールドが無形資産に移行した、ということです。とりわけ無形資産への投資で成功している企業の代表例は、GAFAMでしょう。マイクロソフトの2006年時点の時価総額のうち、工場や設備といった伝統的な無形資産が占める割合は、たったの1%でした。

無形資産のなかでも人的資本は重要で、競争力の源泉は、そこで働く従業員のアイディアや能力に強く依存するようになりつつあります。そうなると当然、投資家は人的資本の情報開示を強く求めるようになります。

このような背景から、日本ではCGコード改訂で人的資本の情報開示が要請されるに至ったわけです。ちなみにアメリカは、日本に先んじて2020年に人的資本の情報開示を義務化しており、世界的な潮流となっています。

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