「働きがいのある人間らしい仕事(ディーセント・ワーク)」と身近な障害

 「働きがいも経済成長も」というキーワードのSDGs目標8には、「2030年までに、若者や障害者を含む全ての男性及び女性の完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事(ディーセント・ワーク)、並びに同一労働同一賃金を達成する。」というターゲット8.5があります。

 発達障害をご存知でしょうか。

 脳の発達に関係する障害で、発達にアンバランスさがあり、人とのコミュニケーションなどが苦手ですが、他面では優れた能力で業績をあげている場合もあるので、周囲からは非常に理解されにくい障害です。自閉症やアスペルガー症候群などを含みます。

 小さな頃から特性が現れ、発達障害との医師の診断を受ける方が多いですが、自らも周囲も気づいておらず、大人になって社会に出てから仕事や対人関係などにつまずき、発達障害と診断されるケースも相当数あると思われます。

 2012年の文部科学省の調査では、通常の学級の児童生徒のうち6.5%が発達障害の可能性があるという衝撃的な数値が出ています。この調査は学校として把握したもので、必ずしも医師の診断があるものだけではありせんが、おおよそ15人1人は発達障害の可能性があるということであり、とても身近な問題です。

 厚生労働省の2018年度の障害者雇用実態調査によると、従業員規模5人以上の事業所に雇用されている障害者数は、身体障害者が42万人、知的障害者が19万人、精神障害者が20万人、発達障害者が4万人となっており、発達障害者が極端に低くなっています。

 一方、2020年度の内閣府の障害者白書では、就労年齢の障害者数は、身体障害者が101万人、知的障害者が58万人、精神障害者が206万人です。発達障害に特化した統計は見当たりませんが、総務省人口推計(2020.10月のもの)の生産年齢人口7,500万人と前述の6.5%から単純計算すると490万人近くとなり、圧倒的多数になります。

障害者雇用者数と障害者数推計
 ※ 数値は文中に記載の統計、推計によります。
 ※ 障害者数推計について、内閣府の障害者白書には発達障害の分類がなく、
  精神障害に含まれているため、精神障害と発達障害との間には一部重複があります。

   

 発達障害者数と雇用の間には大きなギャップがありますが、これは必ずしも発達障害者の就労が他の障害に比べて少ないということを示すわけではありません。前述のように発達障害については、生きづらさや働きづらさを感じつつも、自らも周囲も発達障害との認識がないケースが多々あると思われるためです。

 発達障害は自らや周囲が本人の特性を理解して、配慮・工夫することができれば、本来持っている力を発揮できます。

 この数値のギャップは、企業において発達障害と認識されている人が潜在的な発達障害者数より圧倒的に少なく、多くの人が必要な配慮を受けられないままになっていることを示していると考えられます。

 中小企業においても、自分がつまずいていることやそれがなぜかわからずに悩んでいる従業員の方、従業員を育成しようとしても思うように成果が上がらずに困惑している経営者の方、その原因に発達障害がある場合も多くあると思われます。

 発達障害が身近な障害であり、企業の内外に発達障害の方が当然にいるかもしれないという認識を持って配慮していくことは、発達障害の(またはその傾向のある)従業員の働きがいにつながり、中小企業の人的な面での経営安定化や生産性の向上につながります。また、そうした配慮が顧客に向けば、特に小売やサービス業等では顧客満足度の向上にもつなげることができます。

 自社の従業員満足度(ES)、顧客満足度(CS)、生産性向上のための取り組みをSDGsへの取り組みにつなげるための一歩として、発達障害に目を向けてみませんか。

   

お金の地産地消白書2020

「お金の地産地消白書2020」という冊子を目にする機会があったので、ご紹介します。

合同会社めぐると一般社団法人価値を大切にする金融実践者の会(以下、JPBV)が製作委員会を立ち上げ、両社が提唱する『地域の“志金”が地域でめぐる「お金の地産地消」』のさらなる実現を目指して、クラウドファンディングで製作し、2020年12月に刊行されました。

構成は

  • 【第1章】ソーシャルビジネスと地域金融の最新動向
  • 【第2章】JPBV会員の地域金融機関に対するアンケート結果と分析
  • 【第3章】アンケート結果と分析を踏まえた鼎談
  • 【第4章】JPBV会員の地域金融機関によるソーシャルビジネス支援の特徴的な実践事例
  • 【第5章】価値を大切にする金融が社会課題の解決に向けて実践できること

なお、合同会社めぐるは、白書の普及活動としての「読書会」やソーシャルビジネス支援(組織課題解決ワークショップ)を実施しており、来春には、金融機関役職員を対象にした支援実習も企画(ソーシャルビジネス支援プログラム)されています。

有償のイベントなので、活動の継続性を考えられています。

今後の活動に注目したいです。

クラウドファンディングのサイト

『お金の地産地消白書2020』発行プロジェクト – 凸と凹(でことぼこ) (deco-boco.jp)

気候変動の緩和策と適応策

目標13. 気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を実施する
Target13.3 気候変動の緩和策と適応策、影響の軽減、早期警戒に関する教育、啓発、人的能力、組織の対応能力を改善する

 「緩和策」とは、気候変動を引き起こす原因とされている地球温暖化を少しでも和らげるために、CO2の排出を減らすように、エネルギー消費を抑制( 省エネ)するための行動をとることを指します。
 「適応策」とは、気候変動はすでに起きており、これからも異常気象による災害は避けられないものとして、そのための備えをしておくことをいいます。

企業において考えられる緩和策としては

  • 電気使用量、燃料使用量を記録し見える化して削減意識を継続する(≒見える化ダイエット)
  • 電気・燃料使用量を分析して、削減余地の大きい使用箇所から集中的に改善する
  • 冷暖房、熱源機器を清掃・メンテナンス修理を行い、低下した効率を改善させる
  • 高効率機器への更新、建物の断熱処置を行う

などが考えられます。

また、適応策としては

  • 自治体発行のハザードマップなどを確認し、自社の立地でどのような被災の可能性があるのかを確認する
  • 被災時にも被害が大きくならぬような備え、復旧のための備えを検討し、事業継続計画( BCP)を策定する
  • 防災訓練などを実施して、働く人の防災意識を高め、万が一の場合の対応力を高める

などが考えられます。

自然災害と自社の事業継続とを関連付けて検討し対策することは、SDGsターゲット13.3への貢献にもつながっていると言えると思います。

SDGsを経営に取り入れる『フレームワーク』のご紹介

 新聞やメディアで、「SDGs」という用語を見聞きする機会が増えています。SDGsは「持続可能な開発目標」の略称で、国連加盟193か国が2030年までに達成を目指す17の目標です。最近の調査によれば、20代以下の若年層で認知度が高まりつつあり、特に学生の45%以上がSDGsを知る時代になりました(*1)。中小企業でもSDGsを経営に取り入れ、商品やサービスの開発、社員のモチベーション向上等で成果をあげた事例が知られています。
筆者を含む診断士グループは2020年3月、(一社)中小企業診断協会の調査・研究事業として中小企業のSDGs経営推進をテーマに報告書をまとめました(*2)。ここでは、その中で提唱した「SDGs経営推進フレームワーク」をご紹介したいと思います。

「SDGs経営推進フレームワーク」とは

 SDGsの取組みに関して中小企業経営者からよくお聞きするのは、具体的に何をすればよいのか、またどうやって事業と結びつけるのかが分からない、といった悩みです。SDGsを経営に導入する際の大きな課題といえるでしょう。SDGs経営推進フレームワークは、「SDGsを認知しているが導入に至らない中小企業」に向けた、直観的で使いやすい導入支援ツールとして考案しました。全体図は以下のとおりです。

 「A」~「E」の6つの枠に、自社の強み・経営資源(A)、関連するSDGs目標(B1とB2)、経営・事業戦略(C)、自社の利益向上等につながる効果(D)、地域や社会への貢献(E)を記入することにより、SDGsを取り入れた経営の全体像を可視化できるのが特徴です。フレームワークを作成し以下の点をチェックすることで、導入への一歩を踏み出しやすくなると考えています。

  • 自社の強みとSDGs目標を組み合わせた、経営・事業戦略の方向性を描けているか?
  • 戦略を進めたときに、地域社会への貢献と自社の成長が両立するか?
  • 自社の強みが、地域社会の課題解決に寄与できる姿を描けるか?
  • SDGs目標やターゲットの認識が、自社の成長につながる姿を描けるか?

フレームワーク図の使い方

 「自社の強みを意識しながらもその活用で悩む企業」を例に、このフレームワークをどのように活用するかを説明しましょう。まず自社の強みを「A」に記入するところからスタートします。

  1. 現在認識している自社の強みをAに記入
  2. Aの強みを活かせるSDGs目標を定め、B1に記載
  3. 企業が進むべき方向性を経営・事業戦略としてCに記入。なるべく5W1Hを意識して具体的に記載する。また活用できる外部資源(パートナー)をB2に記入
  4. Cを進める結果、得られる経営上の成果をD、社外への貢献をEにそれぞれ記入、全ての枠を一通り埋めた段階で全体を見渡し、適宜追加・修正

 手順は以上のとおりですが、最初から完璧な全体図を作るのが目的ではなく、SDGsと自社の経営資源の結びつきを認識して、できるところから実行するのが重要です。そのために、経営者とその支援者である診断士が対話しながらこのフレームワーク図を作成し、それぞれの企業にとって望ましいSDGs経営を目指してほしいと考えています。

 17の目標とそれを細分化した169のターゲットという数字が示すとおり、SDGsの内容は非常に多岐にわたります。まず、自社の活動に関連する部分を探すことから始めてはどうでしょうか。

「SDGs経営推進フレームワーク」をご紹介しましたが、報告書(*2)ではSDGs経営を進めている中小企業11社に訪問してその取り組みについて取材し、フレームワークの使い勝手についてもコメントをいただきました。盛りだくさんの内容ですので、ぜひ以下URLのリンクにアクセスし一読いただければ幸いです。

https://www.j-smeca.jp/attach/kenkyu/honbu/r1/sdgs-keieisuisin.pdf

【出所】

(*1) 「第3回 SDGsに関する生活者調査」(電通 2020/4/27)

(*2) 「令和元年度調査・研究事業~中小企業のSDGs 経営推進マニュアルに関する調査研究」((一社)中小企業診断協会 2020/3)

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