先進企業の取組に学ぶSDGs経営セミナー開催!

2024年1月29日、札幌市にて当会主催のセミナー「先進企業の取組に学ぶSDGs経営」を開催しました。
ご参加のみなさまにSDGs経営への理解を深め、積極的に取り組む意欲を高めてもらうことを目的として、北海道と株式会社北洋銀行の共催により実現しました。

実はコロナ前にも1度同様のセミナーを開催しており、今回が2回目のセミナーでした。
77名(主催・共催含む)もの方々にご来場いただきました。

開会挨拶では、当会の代表を務める早坂診断士と北海道総合政策部計画局長 笠井敦史さまより、能登半島地震などの災害や社会の変化を踏まえ、持続可能な社会構築の重要性が強調されました。

続く趣旨説明で当会の鈴木建診断士から学生と社会人のSDGs意識のギャップや、企業が取り組む意義などについての解説があり、セミナーは本丸の事例紹介へ。

発表者はいずれも地元でSDGs経営に取り組むイオン北海道株式会社・リコージャパン株式会社・株式会社札幌丸井三越の3社で、それぞれの立場・視点からみたSDGs経営の具体的な取り組みと成果が共有されました。各社の担当診断士も登壇し、各社の取り組みを深掘りする質問を行いました。

事例発表企業3社のパネリストと木谷診断士によるパネルディスカッションでは、SDGsへの取り組みや個人的な想いについて、熱のこもった議論が交わされました。

セミナーはSDGs研究会・北洋銀行・北海道による支援メニュー紹介を経て、多大なご協力を頂いた北洋銀行取締役ソリューション部部長の山田明さまのご挨拶で閉幕。

SDGsは2030年までに達成すべき目標なので、もうそろそろ折り返しを迎える時期です。
浸透してきた半面、一種の「中だるみ」を感じることも…
そんな中、SDGs経営の重要性を再確認し、先進企業の取組に刺激を受けてもらう機会が提供できたかな、と思っています。

ご参加のみなさん、本当にありがとうございました!

サステナブル経営/SDGs研究会との合同定例会開催

去る2023年6月17日(土)に当研究会の定例会が開催されました。

今回は昨年11月に当研究会にシンポジウムへの参加依頼が来たのをきっかけに何度か交流を重ねてきました大阪府中小企業診断協会の登録研究会である「サステナブル経営/SDGs研究会」との合同開催となりました。(大阪の研究会はSDGsの17のゴールにちなんで毎月17日に定例会を開催しているそうです。)大阪の研究会から23名、当研究会からは6名、計29名が参加しました。

<オンライン合同定例会の様子>※画像を加工してあります

最初に両研究会の活動概要などを相互に紹介したのち、当研究会から企業へのSDGs簡易診断の実務内容等について説明を行いました。また、大阪研究会のメンバー数名が約1年間にわたり特定企業を支援した実例の説明を受けました。

各々の説明の後は、ブレイクアウトルームに分かれてグループディスカッションが行われ、会員同士の自己紹介や、各々の活動の内容についての活発な意見交換が行われました。お互いにSDGsに関する企業支援を行なっているという共通点があるため、支援する過程で工夫した点や苦労した点など発見や共感する部分も多く、制限時間はあっと言う間に過ぎました。最後には30分の延長戦も行われ、盛会のうちに終わりました。

大阪府中小診断協会SDGs研究会の皆様、このような素敵な交流の場を設けて下さりありがとうございました。またお会いしましょう!

セミナー終了報告「SDGsの始め方・使い方」

2023年1月26日(木)に、SDGsのセミナーを開催しましたので報告いたします。
※スイマセン報告をサボっていました。。。

本セミナーは、(一社)北海道中小企業診断士会のセミナー事業を、我々SDGs研究会が受託して開催したものです。
基調講演には、北大大学院 環境科学院教授の山中康裕先生をお招きし、「未来を作る=社会を変える仕組みを作る」と題して、SDGsの背景や考え方について、過去から現在に至るまでの歴史や経緯、そして、SDGsの目的について講義していただきました。国内、海外の事例や動向から、我々がSDGsへどのように取り組んでいくべきかについて言及され、とても興味深い内容でした。

基調講演の後は、我々SDGs研究会のメンバー3名による講義として、「SDGsの使い方」「多様性について考えよう」「SDGsの始め方」をテーマに、様々な事例を用いて参加者と一緒に理解を深めていきました。
本セミナーは、道新本社2Fにあります、SAPPORO Incubation Hub DRIVEのカフェスペースをお借りして、オンラインとのハイブリッドで開催しました。このスペースは、コ・ワーキングスペースと共有されており、日中は仕事や打ち合わせ、新規開業の相談などで賑わっています。フリードリンク片手に、息抜き?で立ち寄る方も多数いらっしゃいました。
来年度もテーマを変えて開催したいと思います。 ※そうですよね? 研究会の皆さん!

<基調講演の様子>

泉准教授による講演会を開催

去る2022年8月25日に、公益財団法人北海道環境財団と当研究会の共催により、2022年3月29日のブログ記事『「SDGs経営」ってなんだ』でご紹介した「やるべきことがすぐわかる! SDGs実践入門」の著者で小樽商科大学大学院准教授の泉 貴嗣氏を招き講演会を開催しました。

会場は札幌の地域インキュベーション・コワーキング施設「HOKKAIDO xStattion01」を貸し切り。参加者は北海道環境財団、当研究会のメンバーのほかにも、北海道庁、札幌市、環境省北海道地方環境事務所、中小企業基盤整備機構北海道本部の方もご参加いただき、20名程度となり、活発に交流が行われました。

泉准教授の講演のテーマは「SDGsウォッシュを防ぐ方法論」

泉准教授の気さくな人柄と親しみやすいスライドでありながら、SGDsを含めたさまざまなウォッシュ(取り組んでいるとPRしながら、実態が伴っていないこと)を事例を交えつつ紹介し、どのように防いでいくかを追求していく、とても深い内容でした。

さまざまなウォッシュとしては、SDGsウォッシュの3つの定義①PRしながらも実績を証明できない。②過去の取組みを現在進行形のようにPRする。③PRしながら実際のビジネスやマネジメントで環境や社会に悪影響を与えている。)やLGBTQに対するピンクウォッシュ、環境経営の偽装であるグリーンウォッシュなどをご紹介いただきました。

SDGsや環境への取組みなどが企業価値に結びつく現在では、そうしたウォッシュは規模の大小を問わず企業が陥りがちな問題です。また、そうしたウォッシュ=ウソが、SNSの浸透で簡単にバレるようになっており、それが企業経営に長期的な傷を残すことになるというお話しは印象的でした。

こうしたウォッシュに陥らないための方策として、まずすべきは全社的な理解(リテラシー)の向上、社会課題を自分ごとにするために自社の存在意義(パーパス)を明らかにして共有すること、経営トップのイニシアティブの重要性、経営計画への組み込み、取組みを記録として積み上げと管理、取組みと人事考課とのリンクなどをあげていただきました。

SDGsへの取組みは、一朝一夕で成果が出るものではなく、誠実に、一歩一歩取り組んでいくことの重要性を再認識させられた1時間でした。

「SDGs経営」ってなんだ?

「SDGs経営」という言葉の定義は定まっていないようです。ウェブサイトやいろいろな書籍で調べてみました。

「SDGsコンパス」

企業がSDGsを経営戦略と整合させSDGsへの貢献を測定し管理していく指針
ステップ1 SDGsを理解する
ステップ2 優先課題を決定する
ステップ3 目標を設定する
ステップ4 経営へ統合する
ステップ5 報告とコミュニケーションを行う

「SDGs経営ガイド」経済産業省

SDGsという「課題解決」に焦点を当てた視座は、企業にこれまで「経済合理性」という視点だけでは見過ごされていた市場に目を向けさせる契機となる。他の企業やアカデミアとも連携しつつ、新しい技術やノウハウを動員することで、果敢にこのような市場を切り開き、課題解決とビジネスを両立させることはまさに「SDGs経営」の体現である。

「Q&A SDGs経営」笹谷秀光著

1 SDGsによる社会課題把握と社内共通認識の醸成
2 SDGsの重要課題の抽出
3 SDGsに関する目標設定と進行管理
4 経営戦略の構築と経営資源配分
5 SDGsを使った発信
以上の要素を満たしてSDGsを実装している経営を「SDGs経営」と呼ぶこととしたい。

「社長のためのSDGs実践経営」岡春庭著・・・SDGs経営推進手順

1 SDGsを理解し、社内で共有する
2 自社の活動をSDGsと紐づける
3 何に取り組むかを決定し、目標を立てる
4 SDGs経営改革を作成し、取り組みを始める
5 取組結果を評価し、次の取り組みへ展開する

「SDGs思考」田瀬和夫著

SDGを経営に実装するプロセスは、
1 経営理念とSDGsを関連づける
2 ガバナンスに関して機会とリスクを分析し、明確なESG対応を行う
3 複数の思考法を組み合わせ、中長期的な事業開拓を行う
4 こうした取り組みを社内外に発信・浸透させていく

「やるべきことがすぐわかる!SDGs実践入門」泉貴嗣著

SDGsを実践するとは、
1 全社的にSDGsのリテラシーを高める
2 ESG問題をリサーチする
3 取組テーマを決定する
4 取組推進のポイントを押さえる
5 記録を作成し、活用する
6 パートナーシップを築く
7 取組を持続的に発展させる

「ものづくり中小企業のためのSDGs入門」森健人著

SDGsを”実装”するということは、
1 「宣言:Declaration」変わる世界において、生存する意思を示すこと
2 「行動原則:Principle」世界の変化に対応するため組織のあるべき価値(姿)を決定すること
3 「説明責任:Accountability」価値観の衝突する世界において、組織の行動の妥当性を証明すること

まとめ

これらのことをまとめてみると、

SDGs経営とは、「事業を通じて、持続可能性に関する社会課題(SDGsの各ターゲット)の解決/実現の達成に寄与する経営」である。

SDGs経営が実現されているとき、
・ 持続可能な自社の将来像と、SDGsとが調和している
・ 会社の成長によってSDGsを阻害しない
・ 経営戦略にSDGsを組み込み、進行管理されている
・ 上記が社会からも認知されている

という状況になっているといえるのではないでしょうか。

カーボンニュートラルはサスティナブルと言えるのか

最近、カーボンニュートラルという言葉をよく耳にしますが、皆さんはどのようなものかご存じでしょうか?

カーボンニュートラルとは「温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること」を意味します。
要するに産業活動で排出している二酸化炭素を、植林・森林管理等で吸収してプラスマイナスゼロにしましょうということであり、温暖化を防ぐための世界的な取り組みとして注目されています。

本日は、このカーボンニュートラルについて、二酸化炭素を多く排出しているであろう電力事業の視点から、本当にSDGsの考えとマッチしているのかを考えていきたいと思います。

そもそも電気はどのように私たちのもとに届いているか

まずは、知らない人も多いと思いますので、そもそも電気はどのように私たちもとに届いているかを説明します。

電気は下図のように発電所から変電所を通って、皆さんの家庭に送られています。
この電気は、今この瞬間に作られたものがまさしく今使われており、基本的には貯めることができません。

そのため、需要(電力の消費)に合わせて、火力発電所などで調整を取っています。
このバランスが崩れると、記憶にも新しい北海道胆振東部地震の時のようにブラックアウトが発生してしまいます。

カーボンニュートラルに向けて今、政府は何をしようとしているか?

政府の動きとして一番大きいものは、電力広域的運営推進機関で主催している「広域連系系統のマスタープラン及び系統利用ルールの在り方等に関する検討委員会」で議論されている「再エネ適地である北海道から、大消費地の東京へ直接電気を送る」シナリオです。

北海道は人口が少なく産業も少ないことから系統規模が小さいため、せっかく風況がいいにも関わらず、再生可能エネルギーでも大規模である風力発電を受け入れることができていません。

この状況を解決するために、北海道で発電した再生可能エネルギーを直接東京へ送ってしまおうといったプロジェクトが進められようとしています。

このプロジェクトを実現するためには電気の流通の仕組みを大きく転換させる必要がありますが、
現在の系統構成は、既存の原子力・火力発電所を前提としたものになっているため、一筋縄ではいきません。

また北海道から本州へ直接送電するためには直流送電技術という最新技術が必要であることから莫大なコストが発生し、そのコストは皆さんの電気料金を値上げした分から徴収されます。

 

カーボンニュートラルで恩恵を受けられる企業はどこか?

 最近では再生可能エネルギー(太陽光・風力)のような不安定電源が接続されるようになったので、需要(電力の消費)だけではなく、再生可能エネルギーの発電状況も考慮して電力の調整をしなければならなくなっています。

再生可能エネルギーは、二酸化炭素や有害物質を排出しないといったクリーンなイメージがありますが、電力の需給バランスを取る上では、非常に厄介な存在です。

一方で、火力発電所は、温暖化の観点から目の敵にされる存在になってしまっていますが、安定的に発電する事が可能で柔軟に出力調整ができるため、電力の需給バランスを取る上では頼りになります。

また、火力発電所はこれまで主に国内の企業で建設・運用をしてきたため、国内にノウハウが蓄積されていますが、再生可能エネルギー関連で主要なプレイヤーとなるのは海外の企業ばかりです。

例を挙げると、
 風力発電の主要企業:GE、Siemens Gamesa、Vestas
 蓄電池の主要企業 :GSユアサ、LG化学、サムスン、BYD、etc,,,

といった具合に蓄電池で辛うじて、国内企業ではGSユアサが奮闘するくらいで、あとは海外企業が幅を利かしている状況です。

このままでは、海外企業が日本の再生可能エネルギー市場を席巻し、国民の電気料金の負担が大きくなる割には、国内経済の発展には繋がらない可能性があります。

さらには、そもそも不安定な電源であることから、電力を安定的に供給できなくなってしまう可能性も高まります。そういった電力の供給が不安定な社会は果たして持続可能な社会と言えるのでしょうか。

カーボンニュートラルについて、確かに環境面ではサスティナブルかもしれませんが、経済面から見るとサスティナブルな設計になっていないように感じます。

もっと多面的な視点で本当のサスティナブルを実現するような施策を打てるように、1人1人が声を上げていく必要があるのかもしれません。

 

SDGsにつながるウェルビーイング経営

 ウェルビーイング(Well-being)という言葉をご存知でしょうか? 心身ともに健康で社会的にも満たされた幸福な状態のことです。社員の幸せを重視する「ウェルビーイング経営」が注目されており、「はたらく幸せ」を社員が感じる会社ほど、組織のパフォーマンスや売上高の増加率が高いという調査結果も出ています(*1)。

 ウェルビーイング経営に取り組む企業は、SDGs目標8:「働きがいも経済成長も」を実践しているといえますね。

ウェルビーイングに影響する要因

 まず、どのようにすれば社員が幸せを感じるか考えてみましょう。働く人の幸せ・不幸せの実感度について分析した「はたらく人の幸せに関する調査」によれば、幸せ感を高める要因として以下の7つがあげられています(*1)。
①リフレッシュできる ②自己裁量が効く ③自己成長できる ④役割を認識できる 
⑤他者から承認される ⑥チームワークがある ⑦他者へ貢献できる
これらの要素が多いと社員が感じるほど、幸せ感が高まります。

 反対に不幸せ感を増す要因は以下の7つです(*1)。
①不快な職場空間 ②オーバーワーク ③理不尽さ ④自己抑圧 ⑤評価に不満 
⑥協力不全 ⑦疎外感
さらにこれらの要因は、「心身の健康に関するもの」、「自分の価値に関するもの」、「人間関係に関するもの」の3つのグループに分類できます(図表1)。以下、それぞれについて事例をご紹介します。

ウェルビーイング経営の事例

1.心身の健康

 福利厚生の一環として、多くの企業が健康診断や予防接種などへの補助を実施しています。また早帰り日でオーバーワーク感を減らす、オフィスのレイアウトや色調を工夫して職場環境を快適にする、ハラスメント相談窓口の設置により理不尽な行為を早期に発見する、などの取組みもよく聞きます。これらに共通するのは「不幸せ感を減らす」効果です。一方「幸せ感を高める」取組みとしてはこのような事例があります。

 東京西サトー製品販売(株)(小売業:東京都立川市)では「バースデー休暇」の制度を設けて、社内の共有カレンダーに社員全員の誕生日を表記し有給休暇取得のきっかけとなるようにしています。この取組みはリフレッシュ感を高めるとともに、「誕生日おめでとう」のメッセージ交換を通じてコミュニケーションの緊密化にもつながっています(*2)。

2.自分の価値

 社員が、自分の活躍できる役割、周りや会社からの評価、新たな学びの機会などを感じられる取組みがこれに該当します。

 例えば会社の経営方針として再生エネルギー利用、資源リサイクル、地域活性化など社会的課題の解決につながるSDGs目標に取り組み、その成果が評価されれば、社員は仕事にやりがいを感じるでしょう。会宝産業株式会社(中古自動車部品の輸出・販売:金沢市)は、環境にやさしい自動車のリサイクル技術を開発し、2018年の「ジャパンSDGsアワード」で外務大臣賞を受賞しました。このように外部から客観的に評価されることで、社会に貢献し誇りを持てる仕事だと社員が実感し、30%程度もあった離職率が6~7%まで低下したといいます(*3)。

3.人間関係

 チームワークや他者への貢献を促し、組織内でのバラバラ感や疎外感を減らす取組みです。興味深い事例としてこのようなものがあります。

 (株)弘(焼肉店運営:京都府京都市)は「弘(=ヒロ)リンピック」と銘打って、アルバイトスタッフも含めた全社員参加の運動会とバーベキュー大会を年1回開催しています。この日は社員がホストになってアルバイトスタッフをもてなし、日頃の業務をねぎらう点が特徴的であり、社長以下全社員が集まるコミュニケーションの場としても活用されています(*2)。

 また(株)Enjin(PR支援サービス:東京都中央区)では「オハナ旅」という制度を作り、社員同士で旅行に行く場合に、年間最大5万円を会社から補助しています。社員間の交流を活発にして人間関係を育むことが目的で、部署をまたいで先輩・後輩、あるいは同期同士での旅行で利用する社員が多いとのこと。単に経済的に助かるというだけでなく、新たなチーム内の結束を固めたり、旅行という共通の目標をもって仕事に頑張る励みになっています(*4)。

 ウェルビーイング経営は、社員の「幸せ感」を高め働きがいを感じさせる点で、SDGsとも密接につながっていることがわかります。心身の健康、自分の価値、人間関係に留意した取組みにより職場の活性化に役立てていただければ幸いです。

【出所】 
(*1)「はたらく人の幸せに関する調査 結果報告書」(パーソル総合研究所、慶應義塾大学 前野隆司研究室:2020年7月)
(*2)「健康経営優良法人(中小規模法人部門)取り組み事例集」2020年、2021年(経済産業省: 2020年3月、2021年3月))
(*3) 「自動車リサイクルで資源循環型社会に貢献「会宝産業」」(J-Net 21)
(*4)「幸せな会社の作り方」(本田幸大 扶桑社:2021年2月)

SDGsはこのまま社会に定着するのか

近年、各企業がこぞって環境対応や社会課題の対策に乗り出しており、SDGsが「流行りもの」であった段階を超えて、本格的にSDGs社会へ向けた取り組みが始まっているなと感じます。

SDGs経営は高度なバランス感覚が求められる

SDGsなどの取り組みをしている企業は、「ESG投資」すなわち「環境(Enviroment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」の観点を重視する投資の対象となるなど、
顧客だけでなく投資家からの注目度も高まっています。
しかしながら、世間がSDGsへの取り組みを評価する一方で、フランスの大企業ダノンでは、「ESG(環境・社会・企業統治)経営」の旗振り役を務めてきたCEOが株主から業績不振の責任を問われて解任されています。
これは、ESGやSDGsへの取り組みは重要であるし評価もするが、業績不振の「言い訳」や「煙幕」としてSDGsやESGを使うことは許さないという株主からの意思表示となりました。

セキュリティを高めれば利便性が下がり、環境対応をすればコストがかかるように、
「ひとつのゴールはもう一つのゴールの障害になる」ことがあります。
それでも、SDGsは普及期を超えて成熟期に移っており、目を背けることができなくなった今、経営者はより高度なバランス感覚で事業を行う必要が出てきたということだと思います。

それでも企業がSDGsに取り組む理由

それはなぜか、多くの人々(これからさらに増えていく)がSDGsを求めているからです。
企業は何のために事業を行うか。
ドラッカーは「利益をあげること」と「従業員の幸福を実現すること」「地域社会や国家へ貢献すること」と述べています。

「利益をあげる」には「顧客が求める商品やサービスを提供する」ことが必要です。
「従業員の幸福」のためには、「誰一人取り残さない制度設計や評価制度」が必要です。
「地域社会や国家への貢献」のためには、「社会(Social)」が求める取り組みが必要です。

顧客や社会がSDGs的考え方を求め始めているとするならば、
必然的に今後多くの企業がSDGs的視点を取り入れた経営を行うでしょう。

すでに好循環のサイクルに突入している

私は既にSDGs定着への好循環のサイクルが回り始めていると感じます。

①同等の商品サービスの競合他社がいた場合、差別化要素としてSDGsを積極的に
 活用する企業がでてきます。
②同業他社や競合企業がSDGsを活用することで利益をあげたり、
 地域への貢献度を高めているのであれば、相対的魅力を維持・向上させるため
 自社でも「SDGsを活用しよう」と考えます。
③SDGsに取り組む企業が増加します。
④消費者がさらにSDGsに触れる機会が増え、エシカル消費が増加します。
⑤それ応えるように、さらに企業はSDGs的取り組みを活発化させます。

このように、SDGsが社会に定着するための好循環が始まっていると考えます。

一方で・・

SDGsの取り組みは必須と申し上げましたが、一方で「まったくSDGsに興味がない層」や「むしろSDGsに反発する層」も必ず存在します。
製品やサービスのバックボーンは問題ではなく、とにかく安いものを求める顧客がいるのも事実です。例えば街のスーパーや100円均一などで、「SDGsに取り組むのですべての取り扱い商品の価格が上がります。」となれば顧客が離れてしまう可能性も大いにあります。
SDGsに取り組むことが必ずしも顧客満足を高めることになるわけではないということにも、実は注意が必要であるということです。

「SDGsネイティブ」や「エシカル消費」の増加

最近では小学校の夏休みの自由研究や授業でSDGsを取り扱うことがあるそうです。
本屋でも子供向けのSDGs関連本が多く目に入りますし、「SDGsネイティブ」の世代が確実に増えていくことでしょう。

アメリカのマクドナルドでは植物由来の代替肉バーガーが提供されるようになっていますし、日本でもレジ袋を辞退する人が増えたり、フードロスを意識して賞味期限が近い商品を購入したりと、一般消費者レベルでの「エシカル消費」が確実に増えています。
多くの消費者は企業にSDGsへの対応を求めているということだと言えます。

消費者の「エシカル」な消費行動が今後、より浸透していくならば、企業が選ばれ続けるためにはSDGsの活用は「必須」であり、また、製品やサービスが横並びになっている現代で他の企業が付加価値として環境対応を進めるのであれば、自社の相対的魅力を維持するためにも「必須」となります。

SDGsの考え方が普及・定着しつつある現代社会では、「この商品を買いたい」ではなく
「あなた(貴社)から買いたい」と思わせることが重要になるということです。

事業は人なり? SDGs/ESGで改めて注目される人的資本

経営の神様・松下幸之助はかつて「事業は人なり」と語ったとされます。そこには、企業を発展させるのは、技術でも製品でもなく人であるというメッセージが内包され、人的資本の重要性が示されています。

松下幸之助が経営の第一線を退いてから50年あまり、2021年は日本企業にとって人材マネジメントを見つめなおすターニングポイントの一年になりました。大きなきっかけは、コーポレートガバナンスコードの改訂です。

CGコード改訂で明記された人的資本の重要性

コーポレートガバナンスコードとは、東京証券取引所が上場企業に求める原則(コード)です。企業が持続的に成長し、中長期的に企業価値を向上させるために必要(と考えられる)ガバナンス上の原則がまとめられています。

このコーポレートガバナンスコード(以下「CGコード」)は3年ごとに改訂されていくもので、2021年6月に最新の改訂がなされました。改訂の目玉の一つが多様性や人的資本に関する内容です。以下引用します。

“補充原則2-4①
 上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示すべきである。
 また、中長期的な企業価値の向上に向けた人材戦略の重要性に鑑み、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきである。”
“補充原則3-1③
 上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。(後略)”

ざっくりまとめると、「中長期的に企業価値を向上させるには人材戦略が重要だよね」という点と、「だから、人的資本に関する方針を対外的にも開示してね」という要請の二つがポイントとなっています。

今回のCGコード改訂により、上場企業にはダイバーシティを含む人材マネジメントの基本方針を開示することが求められるようになりました。好む・好まないに関わらず、人的資本について考えることを迫られているわけです。

なぜ人的資本が重要になってきているのか?

CGコード改訂で人的資本の重要性が指摘され、上場企業には情報開示が求められていることはわかりましたが、背景にはどういった理由があるのでしょうか。キーワードは「無形資産」です。

企業が保有する資産は大きく有形資産と無形資産に分けられます。有形資産はその名の通り形を持った資産で、例えば工場や機械、商品などが挙げられます。一方で無形資産は目に見えないもので、その一つに人材があります。

近年、無形資産の重要性が加速度的に高まっています。アメリカ主要企業500社の調査では、時価総額の8割超が無形資産によりもたらされていることが分かっています。推移をみると、比率は年々高まっています。

上記から読み取れるのは、企業の競争のフィールドが無形資産に移行した、ということです。とりわけ無形資産への投資で成功している企業の代表例は、GAFAMでしょう。マイクロソフトの2006年時点の時価総額のうち、工場や設備といった伝統的な無形資産が占める割合は、たったの1%でした。

無形資産のなかでも人的資本は重要で、競争力の源泉は、そこで働く従業員のアイディアや能力に強く依存するようになりつつあります。そうなると当然、投資家は人的資本の情報開示を強く求めるようになります。

このような背景から、日本ではCGコード改訂で人的資本の情報開示が要請されるに至ったわけです。ちなみにアメリカは、日本に先んじて2020年に人的資本の情報開示を義務化しており、世界的な潮流となっています。

SDGsの「見える化」と「儲け」

「環境問題で儲ける」「社会貢献で儲ける」といった話題に拒否感を抱く方は多いでしょう。
とはいえ、企業の”持続可能性”を考えたとき、お金になるかどうかという観点は極めて重要です。SDGsによって機関投資家の援助を受けやすくなるという説もありますが、道内の中小企業にはあまり馴染まないでしょう。

私は、自社のSDGsへの取り組みを積極的に対外的にアピールし、積極的に儲け(売上)に繋げていくべきだと考えます。どんなに素晴らしい取り組みであっても、人に知られず、お金にも繋がらないようでは、自己満足や無駄遣いといわれても仕方がありません。ボランティアや無償の協力を強いられては社員の批判や反発も強まることでしょう。

そこでSDGsの「見える化」に関する2つの事例をご紹介します。

1. 東芝〜JR南武線溝ノ口駅に置かれた水素エネルギー供給システム

JR東日本向け自立型水素エネルギー供給システム「H2One™」

通常、インフラ設備は無骨な筐体で覆われていることが一般的です。一方、この設備は意匠にこだわることで「見せる」インフラ設備となっています。https://www.global.toshiba/jp/news/corporate/2017/04/pr1701.html

2. ユニクロ〜SDGsに関するQ&A

よくあるご質問と題して、Q&A方式でSDGsに関連する自社の取り組みをキレイにまとめられています。 https://www.uniqlo.com/jp/ja/contents/sustainability/sdgs/index.html

以上のような取り組みは、すぐに「儲け」に直結しているわけではありません。しかしながら、長期的な目線で見たとき、確実にブランドイメージ向上に貢献しています。ブランドイメージの向上は信頼や評判に繋がり、後々の「儲け」となって企業の”持続可能性”が高まります。

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