SDGsゴールの11番目に掲げられている「住み続けられるまちづくりを」。
廃棄物や工業汚染、海外ではスラム街といった文脈で語られるこのゴール、「働きがいも経済成長も」や「海の豊かさを守ろう」といった他のゴールに比べれば日本人には少し距離感があるかもしれません。
日本人にとってわかりやすいゴール11のテーマは「防災」ではないでしょうか。
地震・津波・風水害・大雪・火山噴火など、災害大国といわれる日本は多種多様な自然災害に備えておかなくてはなりません。
かつては「いざという時の被害を少しでも軽減する」ということに主眼が置かれがちでしたが、東日本大震災以後は加えて「速やかな復旧復興を図る」ということの重要性も指摘されるようになってきており、近年では「災害に対するレジリエンスを高める」という表現をよく目にするようになってきました。
国も「直接死を最大限防ぐ」「経済活動を機能不全にしない」などの指針を「国土強靭化基本計画」にまとめ、大きな予算を割いて「レジリエントなまちづくり」を推進しています。
国のガイドラインにも謳われている「レジリエンス」ですが、現状はどれほど達成されているんでしょう?
先日、あるきっかけで「津波フラッグ」というものの存在を知りました。
これは2020年に気象庁が定めたもので、津波への警戒を「視覚的に」促すことを目的とした旗。
夏の海水浴場や港湾などに津波の危険が迫った時に掲揚したり、人が振ったりして使用するんだそうです。
旗そのものは言語の違いを超えて船舶同士がメッセージを伝えるときに用いる「旗旒(きりゅう)信号」で用いるもので、旗旒信号的には「貴船の進路に危険あり」という意味です。危険つながりで津波フラッグに指定されたのかもしれません。
この津波フラッグ自体は特別にSDGsを謳ったものではなく、ただ「防災・減災」の観点から制定されたものだと思われます。
しかし、ボクはこのニュースを見て直感的に「SDGsだ!」と感じました。
考えてみれば海水浴で海に入っているとき、ふつうスマホは岸に置いていきますよね。
そのタイミングで地震が発生したら、緊急地震速報は聞こえません。
まあ管理された海水浴場なら放送などで教えてくれるか……というところまで考えて、「ん? そもそもそれ自体聞こえない人だっているじゃないか!」ということに気づいたのです。
調べてみたら過去にNHK香川がこんな番組を放送していました。
(生活にすぐ取り入れられる防災情報 防災インタビュー「第9回 聴覚障害者が逃げ遅れないために」
https://www.nhk.or.jp/takamatsu/program/003/bousai/9/index.html)
やはり聴覚障がい者は災害時にとてつもなく苦労するようです。津波であれば「津波が来る音」さえも聞こえないんですから、その苦労は想像に余りあるものがあります。
考えてみれば緊急地震速報といい防災無線といいラジオといい、防災・減災にかかわるものは聴覚に頼ったものがほとんど。
ということは、耳が聞こえなければ「これから地震が来る」ということも「どこに逃げればいいのか」も「いまどこでどんな支援が受けられるのか」もわからないということです。
「だれひとり取り残さない」はSDGsのスローガンですが、緊急を要する災害発生時こそ「だれひとり取り残さない」ということが特に重要です。ここで取り残されることは生命に関わりますからね。
ひるがえって(旗だけに)、「津波フラッグ」は「緊急時防災無線などの『音声』を補完し、聴覚障碍者を取り残さない」ための取り組みとして、非常にSDGs的だと解釈したわけなんです。
それにここまで来ると「いざという時に不利だった聴覚障碍者にも危険を報せられる」ということで、ゴール11「人や国の不平等をなくそう」にも貢献する取り組みであることがわかります。
テレビなどでもSDGsに関する話題をよく見かけるようにはなってきましたが、どうしても「エコ」の観点からの意見・取組み・技術などが多いような気がします。
「環境にいい」「地球にやさしい」がSDGsとも深く関わる概念なのは間違いありませんが、もっと
エコ以外のことの中にも「SDGsのタネ」を見つけていくことが、自分自身の「SDGs力」を鍛えることにつながっていくと思います。
皆さんもぜひ、「SDGsの視点」で日常を見てみてくださいね。
あ、ちなみに「津波フラッグ」の導入は記事執筆時点(2021年7月22日 海の日)で、海水浴場のある全国の421の市町村のうち114と全体の27%だそうです。
(NHK 「津波避難呼びかける「津波フラッグ」導入自治体30%にとどまる」より
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210722/k10013153181000.html)
昨年始まったばかりの取り組みですが、早く広まってほしいですね。