フェアトレードの歴史と札幌の取り組みについて

1.概要
フェアトレードは、1946年、アメリカのキリスト教系救援開発NGO(現 テン・サウザンド・ヴィレッジ)のエドナー・バイラー氏が、プエルトリコの貧しい女性たちが織る刺繍製品を購入し、教会でチャリティ販売を始めたことが起源とされ、その後、1960年代にイギリスやオランダなどヨーロッパ諸国でフェアトレードの活動が広がっていきました。
1960年代に入ると、貧困から抜け出して自立を促すような開発志向の側面が強まります。この時代には、従来とは別の貿易のしくみを作ろうということで「オルタナティブ・トレード」という言葉が使われていました。
「オルタナティブ・トレード」では、中間業者を廃し,直接取引をし,オルタナティブな販売網でボランティアのようなオルタナティブな労働力を使った貿易が行われました。
1980年代末、不況とフェアトレード商品の品質が課題となったことで、フェアトレード市場の売り上げが低迷し、それまでは商品の品質にはこだわりを持たない倫理的な消費者が購入するものでしたが、高い品質を求める一般消費者にもマーケットを拡大していく必要性に迫られたことで、フェアトレード団体でビジネス志向の動きが強くなってきました。
これによって、別の貿易のしくみを作ることを意図していた「オルタナティブ・トレード」から、すでにあるしくみを「フェア」なものへと変えていこうとする「フェアトレード」へと呼び方が変わってきました。
「フェアトレード」という言葉が使われたのは1985年とされています。
日本でのフェアトレード活動が本格化したのは、1980年中ごろからになります。 

2.フェアトレードの活動の分類
文献2によりますと、フェアアドレードの活動は、①新規参入促進型、②取引条件改良型、③プロモーション・啓発型、④マクロ貿易システム改良型の4つに分類されます。
① 新規参入促進型(1946年〜)
初期のフェアトレードでは、教会やチャリティ団体が主体となり、各団体が支援する途上国の生産者が作った手工芸品を直接輸入し、各団体が運営する専門店で販売する活動でした。これは、既存の貿易システムから取り残された発展途上国の生産者を貿易に取り込むことによって、収入の機会を提供していくことを目指した活動となっています。

<主な出来事>
1946年  アメリカのキリスト教系救援開発NGO(現 テン・サウザンド・ヴィレッジ)のエドナー・バイラー氏が、プエルトリコの貧しい女性たちが織る刺繍製品を購入し、協会でチャリティ販売を開始
1949年  米国プレザレン教会(ドイツ系)がSERRVという団体を組織し、第2次大戦後に難民化したドイツ人がつくった鳩時計を輸入・販売
1964年  イギリスで国際NGOオックスファムが中国人難民の手工芸品を販売(イギリス初のフェアトレード)
1967年 オランダのNGO、スティッチングSOSが貿易部門を設立し、ハイチの木製彫刻品を輸入・販売

<オックスファムについて>
オックスファム(Oxfam)は、1942年、ナチス軍による攻撃で窮地に陥っていたギリシア市民に、オックスフォード市民5人が、食糧や古着を送ったことが始まりであり、設立当初の名称は、「オックスフォード飢饉救済委員会(Oxford Committee for Famine Relief)」でした。
1965年にからオックスファム(Oxfam)へと改称しています。

② 取引条件改良型(1973年〜)
1970年代に入ると、貿易に参加はしているものの、不利な取引条件を強制されていた生産者に向けて、公正な取引条件の提供を目指す活動が進められました。
1970年代後半からは、生産者の自立支援だけでなく,一般企業にフェアトレードを取り入れさせることを目指し従来の市場そのものの変革を目指した活動へと進んでいきます。

<主な出来事>
1973年  スティッチングSOSがグァテマラの小規模生産者組合から輸入したコーヒーを「公正に取引された(Fairly Traded)コーヒー」として販売を開始。これは、取引条件改良型の始まりとされています。
1980年~ 紅茶、カカオ、砂糖等多くの一次産品が公正に取引された商品として先進国で販売
1979年  スコットランドにイコール・エクスチェンジUK 設立。フェアな貿易条件を求めるようになっていきます。
1979年  英国トレード・クラフト設立。一般企業にフェアトレードを取り入れさせることを目指した活動を行います。

③ プロモーション・啓発型(1980年代後半〜)
持続可能なフェアトレードにしていくためには、それを扱う企業や購入する消費者を増やしていくことが必要でした。そのためフェアトレード団体は、先進国の企業や消費者に向けて、啓発活動・販売促進を強化させるとともに、団体間の連携を強めてネットワーク化が進展していきます。

<主な出来事>
1985年 第三世界情報ネットワーク(TWIN)設立
TWINの代表であったブラウン氏が「フェアトレード」という用語を最初に使用したといわれています。
1987年 欧州フェアトレード連盟(EFTA)設立
ヨーロッパのフェアトレード輸入業者の集まり
1988年 Max Havelaar(世界最初のフェアトレード・ラベル)が作られる
オランダの教会が母体のNGOによって考案
1989年 オルタナティブ・トレード国際連盟(IFAT: 現在のWFTO)設立
これは、先進国の輸入団体や途上国の生産者団体の集まり
1994年 欧州ワールドショップネットワーク(NEWS!)設立
これはヨーロッパのフェアトレード専門店の集まり
1994年 フェアトレード連合(FIF)設立
北米のフェアトレード団体の連携組織
1997年 国際フェアトレード・ラベル機構(FLO) 設立
フェアトレード認証ラベルの統一組織
1998年 FINEを形成
FLO、 IFAT、 NEWS!、EFTAによる非公式なネットワークで、アドボカシー(政策提言)活動の強化を目的としたものです。
1997年 フェアトレード・フォートナイト開催(イギリス全土で開催されるキャンペーン)
2000年 イギリスのガースタングが、町民集会で世界初の「フェアトレードタウン」を宣言
2001年 Fairtrade Foundationが5つの基準を策定してフェアトレードタウンを認証制度化
2003年 オックスフォード・ブルックス大学が世界で最初のフェアトレード大学に認定
2009年 IFATがWFTO(World Fair Trade Organization)へと転換

④ マクロ貿易システム改良型(1990年代〜)
1995年に世界貿易機関(WTO)が設立されて以降、自由貿易体制が急速に推進されます。また多国籍企業による発展途上国での労働搾取も表面化しました。これを受けて多くのフェアトレード団体が、国際機関や各国の政府に対して貿易システムの変革を行うよう政策提言もし始めます。

<主な出来事>
1999年 IFATやNEWS!が、WTOに対して貿易システムの改善を求める意見表明書を発表
2004年 ベルギーにフェアトレード・アドボカシー事務局(FTAO)設置
国際機関や各国政府に対する政策提言活動の窓口としてフェアトレードの政治的な地位の強化に務めています。

3.日本でのフェアトレード活動
1974年
日本の国際協力NGO「シャプラニール」がバングラデシュで生産者協同組合の設立を支援し、生産された手工芸品を日本で販売開始
1986年 第3世界ショップが日本で最初にフェアトレード事業を開始。当初はヨーロッパのフェアトレード商品を輸入・販売
1989年 オルタトレードジャパン(ATJ)設立
1991年 グローバルヴィレッジ結成
グローバルヴィレッジは、環境保護と国際協力の民間団体で、1995年1月にはフェアトレードの輸入販売の事業部門を独立させて「フェアトレードカンパニー株式会社」を設立しています。
1992年 ネパリ・バザーロ(ネパリ・バザーロと市民団体ベルダレルネーヨ)活動開始
1993年 4月  日本最初のラベル商品発売
1993年11月 トランスフェアジャパン発足
トランスフェアジャパンは、2004年2月に法人化。名称をフェアトレード・ラベル・ジャパンに変更しています。
1995年 「ぐらするーつ」設立
NGOや有志が力や知恵を出しあって設立された草の根の市民団体で、フェアトレード商品の輸入販売やイベントの企画・運営を行っています。
1997年 10月 「草の根貿易商談会」開催(ジェトロ池袋展示場)
フェアトレードをもっと多くの方々に知ってもらうためのイベントです。
2011年 「フェアトレードタウン・ジャパン」設立
まちぐるみ、地域ぐるみでフェアトレードを推進する「フェアトレードタウン運動」の国内での普及を目指した団体です。
2011年  熊本市が日本初のフェアトレードタウンに認定。
その後、名古屋市(2015年)、逗子市(2016年)、浜松市(2017年)、札幌市(2019年)、いなべ市(2019年)がフェアトレードタウンに認定。

4.北海道でのフェアトレード活動
札幌市では古くからフェアトレード活動が盛んで、1980年代後半のフィリピン、ネグロス島のキャンペーンに賛同したJCNC北海道がバナナを輸入して「民衆交易」を開始したのが始まりと言われています。
その後、1990年代に入り、フェアトレード品の常設店の開店が相次ぐとともに、2002年からはフェアトレードフェスタを開催。現在は「フェアトレードフェスタinさっぽろ」として、毎年大通公園で大規模に開催されています。
さらに、2019年には札幌市が国内5番目のフェアトレードタウンに認定、続いて、同年、北星学園大学と札幌学院大学が国内2番目のフェアトレード大学に同時認定されました。

こういった活発なフェアトレード活動により、私たち一人一人がローカル/グローバル、どちらのレベルでも大きな影響を持つ市民であることへの気づきを生み出しています。これを、「フェアトレードタウンさっぽろ戦略会議」会長を務める、北星学園大学教授 萱野智篤先生は、「グローカルな市民意識」と呼んでいます。 

5.SDGsとフェアトレードの関係
フェアトレードは、SDGsよりはるかに歴史が古く、貧困や生産者の健康、経済成長、環境問題など、課題解決のテーマがSDGsと共通しており、SDGsの理念を伝え、我々の「ありがとう」を生産者に伝える役割も担っているといえます。そのような観点から、「フェアトレードは、SDGsのメッセンジャー」であると言えます。

<参考資料>
1) 「10分でわかるフェアトレード」、石丸オリエ、シンポジウム「フェアトレードが広げるスポーツの輪」資料(2019)
2) 「フェアトレードを学ぶ人のために」 佐藤寛(編)、世界思想社(2011)
3) 「フェアトレードの歴史」、フェアトレードショップ「パルマルシェ」HP (2021)(https://parmarche.com/pages/aboutfairtrade/)
4) 「フェアトレードの歴史と動き」、ネパリ・バザーロHP
 (http://www.nbazaro.org/history/history.htm) (2020)
5) 「フェアトレードの歴史と「公正」概念の変容」、 山本純一、立命館経済学(第62巻・第5・6号)(2014)
6) 「フェアトレードタウン運動基本のき」、菅野智篤、自由学校「遊」連続講座資料(2019)
7)  「札幌市のフェアトレードタウン認定への歩み」、菅野智篤、自由学校「遊」連続講座資料(2020)
8) 「フェアトレードの推進」、札幌市HP (2021)
(https://www.city.sapporo.jp/kokusai/cooperation/fairtrade.html) (2021)
9) 「さっぽろフェアトレードパンフレット」、フェアトレードタウンさっぽろ戦略会議 監修、札幌市総務局国際部交流課(2020)

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